*上図はアルゴリズムトレードによる損益分布の一例を示したもの
第2話 アルゴリズムトレードとリスクについて考えてみる
金融の世界では ”リスク” という言葉がよく使われます。このリスクという言葉はとても重要なのですが、アルゴリズムトレードを考えるときには注意が必要です。
1. 金融の世界でのリスクとは?
- 金融の世界では”ボラティリティ” すなわち「保有資産価格リターンの標準偏差」をリスクと定義しています。単純に言えば「値動きの激しさ」がリスクということです。
- 金融のリスクという観点からすると、価格が変わらないものはリスクがゼロということになります。その一方で、価格が変わるものには必ずリスクがあります。金融市場で儲けたいと思うならば、価格の動く資産を売買しなければなりません。それが「リスクをとる」ということです。リスクに関わることは金融工学という学問がいろいろと教えてくれます。
2. アルゴリズムトレードとボラティリティの関係
- アルゴリズムトレードは金融市場で売買するための道具です。つまり、自分の資産の量を変化させるときに使う道具です。ところが、金融世界でのリスクであるボラティリティは、値動きの激しさについての情報しか教えてくれませんから、これまでの「金融工学的なリスク管理という技術は、アルゴリズムトレードの使い方についての有効な情報をあまり与えてくれません(少しは役立ちますが・・・)」。
- それは、ボラティリティという基準が、(1)資産を持ち続けている場合や (2)どの資産が良いかを選択する場合(例えば、トヨタが良いか、ホンダが良いか)には有効なのですが、(a)売買するタイミングを決める時や(b)売買する数量についてはあまり役立たないからなのです。 アルゴリズムトレードはこの(a)と(b)に関する技術なのです。
3. HFTはリスクをコントロールしているのか?
- 金融市場において、価格を観察している期間が長くなれば、変動幅は一般的に広がります。その点では、観察期間が瞬時となるHFTは、価格の変動幅を狭い範囲に抑えて売買していることになります。しかし、だからと言って、HFTが金融市場における売買のリスクをコントロールしていると言えるでしょうか?
- 3.1 HFTが管理しているのは?
- HFTは、金融市場の最新情報を管理者に伝え、管理者からの指令(売買)を即座に実行します。ミリ秒単位の情報のやり取りになるので、この管理者は売買アルゴリズムを実装しているコンピュータになります。
市場の反応を誰よりも早く知覚できるため、管理者である売買プログラムの意図を忠実に実行できることになります(100%とは言えませんが、それに極力近い数字になると思われます)。 - すなわち、HFTが管理しているのは、予め準備されている売買プログラム(アルゴリズム)の実行可能性なのです。
- 3.2 アルゴリズムトレードが管理しているのは?
- アルゴリズムトレードは、通常、数理的な分析に基づいて作られます。ベースとなる分析は、何を目的とするかによって千差万別ですから、一律な基準を儲けて管理することは簡単ではありません。アルゴリズムトレードが管理しているのは、事前に想定された数理的な分析の範囲内での行動(売買パターン)と想定外な事象が発生した時の停止判断(これがなければ、暴走します)、ということです。
- 3.3 人間が管理すべきこと
- 金融市場は、絶えず新しい情報が行き交う場ですので、想定できない動きを発生させることが間々あります。大事な事は、想定外の事象が発生した場合に、アルゴリズムトレードがどのように発ち振る舞うかを監視し、最終的なオン・オフのスイッチを人間が管理する事です。
- 万能薬が存在しないように、万能アルゴリズムトレードは存在しません。